2017年にBS1で放送された『球辞苑』でライオンズなどで活躍した土井正博が引っ張りの打撃について語っています。

 

土井正博は1961年に近鉄に入団し、2年目から18歳の4番打者として名を馳せ、豪快なバッティングでファンを湧かせた。1975年に太平洋クラブライオンズに移籍し、その年に34本の本塁打でホームラン王を獲得。パ・リーグ一筋で生きた昭和を代表する生粋のスラッガー。

 

―「引っ張り」と言えば土井さん

土井 はい。流したらもったいないような気がするんですよね。

 

この言葉から分かるように土井はどんな球種やコースでもとにかく引っ張った。内角球はもちろん引っ張ってレフトスタンド。更に外角いっぱいの球も引っ張ってレフトスタンドに放り込む打者だった。通算本塁打は歴代12位となる465本だが、その中でも右方向に流したホームランはたったの3本。全てのホームランのうち、実に99.3%がセンターからレフト方向に打ったものだった。まさに引っ張りレジェンド!

 

 

外角の引っ張り

―引っ張りの極意

土井 外角の球を真ん中にするっていう感じですよね。

 

ここから実際に説明

 

土井 こういうふうに立って構える。

 

 

土井 それで普通の球だとバットはどこでも届くんですよね。バットの長さとリーチの長さでちょうど外角の球が真ん中になるようにね。

 

スタンスの立つ位置はホームベース寄り。ギリギリまで近づくことで外角いっぱいのボールでも真ん中のように捉える。

 

 

―もう1つの極意

土井 ボールを捉える瞬間の腕の形を二等辺三角形にする。

 

 

土井 ホームランバッターは大体ここで大きい三角形を作って打つというね。

 

 

外角球を引っ張る時にインパクトの瞬間に両腕をしっかり伸ばし、二等辺三角形を作る。

 

 

 

―その結果

土井 「あっ!」と思っても二等辺三角形を作ってインパクトをすると飛ぶんですよ。手が抜けていくから。ただ、気を付けていたのは左肩を開かないようにね。

 

 

土井 足だけは開いても左肩は開かない。

 

 

土井 そこで開かないということは、グリップはまだ後ろに残ってますからね。そこからスイングすれば勝手に両腕の二等辺三角形ができてるということですね。先ほど言ったように左肩を開く人は二等辺三角形を作れない。

 

 

たとえアウトステップになっても左肩さえ残せていれば両腕を二等辺三角形に伸ばした状態で外角球を捉えられ、しっかりと引っ張ることが出来ると言う。

 

 

更に腕を伸ばすことでバットの遠心力も増すため飛距離も伸びてスタンドまで運べるのだ。
では、ホームベース寄りに立つことで窮屈になる内角はどう引っ張るのか。

 

 

内角の引っ張り

―内角の引っ張りについて

土井 インサイドには物凄く自信があったんですよね。

 

―内角打ちの技術

土井 内角に来たボールに対して手を畳めるというのがあったんですよ。畳んだ時の小さい腕の三角形でもホームランになる。

 

 

土井 うまく左肘を背中側に抜きましたね。そうするとちょうどポール際にスーっと切れないでスタンドに入るんですよ。

 

内角のボールを強く振り切って引っ張っるとファウルになりやすい。そこで小さな三角形を作るように腕を小さく畳む。

 

 

そのまま体を回転させてボールを叩く。そしてインパクトの直後に左肘を抜く。

 

 

その結果、インコースを引っ張ってもファウルゾーンに切れずポール際ギリギリに叩き込むことが出来た。更に漫画『あぶさん』のモデルにもなったという、構えた時にバットのヘッドをピッチャーの方に向けるという独特の構えだった。

 

 

実はこれにもボールをフェアゾーンに飛ばす工夫か隠されている。

 

 

―ヘッドをピッチャーに向ける構えについて

土井 その構えからヘッドを遅らせるようにスイングする。

 

―それはなぜ?

土井 普通にヘッドをピッチャーに向けずに構えたらバンっと振ったらヘッドの面が早く出てしまうので。そうなると芯に当たっても全部ファウルになるんですよ。そこでヘッドをピッチャーに向けブワンとスイングしたらちょうどヘッドが遅れてくる。

 

 

土井 それでスイングするようにしたらレフトのポールの方に入るようになったんですよね。

 

土井はもともとリストが強くヘッドが返りやすかった為、レフト線の当たりがファウルになりやすかった。そこでヘッドをピッチャーに向ける独特の構えにより、敢えてバットの始動を遅らせ手首が返るタイミングも遅らせた。その結果、引っ張っても切れない打球を飛ばせるようになったのだ。

 

―ボールが来て、どの時点で引っ張ろうとする?

土井 それは自分の感性ですよね。その感性で前の方でバーンといくし、外目の変化球もフワーっと来たら手がバーンと伸びていくしね。内寄りにシュートが来たら腕を畳んでグワっといくしね。

 

レジェンドの豪快な引っ張りには細やかな技術と自身の感性が凝縮されていた。

 

―改めて引っ張りとは?

土井 僕の生きがいですね。流して失敗するよりは自分が納得するような引っ張りで失敗した方がええっちゅう考えで。頑としてそれをやりましたのでね。

 

土井は引退後に打撃コーチとして数々のタイトルホルダーを育成した名伯楽でもある。

 

以上です。

引っ張りが生きがい。
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