2017年2月にBS1で放送された『球辞苑』で阪神タイガースの監督時代の奇策継投について野村克也が語っています。そして途中から松井秀喜との対決についても遠山奨志を交えて語っています。
最初はノムさんが左殺しをテーマに語っています。途中から松井秀喜との対決についての話が始まります。
遠山を2度使う継投
野村克也に聞きたい左殺しといえば、阪神監督時代に見出だした遠山奨志。ピンチで迎えた左バッターをことごとく抑え、チームを救ったワンポイントリリーバーだ。このスペシャリストを有効活用するために野村監督はある特殊な起用法を編み出した。
例えばノーアウト満塁で登板した遠山は左バッターを内野ゴロ。ゲッツーにはならなかったものの1アウト1-3塁とする。次の打者は右バッターで遠山はお役御免となるところだったが、野村監督の作戦は右ピッチャーに交代し、遠山をなんとファーストの守備に就かせた。右ピッチャーが1つアウトを取ると、次の打者は再び左バッター。すると左殺しの遠山を再びマウンドへ。そして目論見通りに左バッターを抑えて遠山を二度も登板させるという奇策は見事に的中した。
―遠山を二度登板させたこと
野村 苦肉の策ですよね。(チームが弱くて駒が)いないからしょうがない。そういうふうにしないと。ピッチャーが皆目いない。特に巨人なんてのは左バッターにいいのがいるでしょ。松井秀喜を中心にね。
野村監督の就任当時、弱小と言われた阪神は投手陣が崩壊。特に中継ぎ陣が駒不足で中盤以降に試合が崩れることが多かった。そこで苦肉の策として編み出したのが、『遠山―右投手―遠山』という異例の起用法だった。中でも右のアンダースロー葛西稔との継投は効果抜群で1ヵ月の間に6回も試み、全て勝利に結び付けた。
―異例の継投策
野村 バッターを幻惑していくという右バッターには葛西、左バッターには遠山。
―全て成功している
野村 あ、そう。それは名采配だね(笑) あの大打者の松井秀喜さんが遠山を嫌がってましたからね。
VS松井秀喜
この奇策に最も苦しめられたのが球界を代表する左のスラッガー松井秀喜だった。そもそも松井は左ピッチャーを苦にするバッターではなかった。しかし、遠山と対戦すると凡打の山。野村阪神1年目、松井の対遠山は13打数0安打と一度もヒットを打つことができなかった。そして遠山は『松井キラー』としてその名を轟かせ松井からは「顔も見たくない」と言わしめるほどだった。
―松井キラーの遠山
野村 やっぱりプロ野球は同じ選手と何回も対戦しますから、苦手意識を作るのが理想です。遠山をコールすると松井が「イヤなピッチャーが出てきた」と思わせるのが一番良い。
ここから遠山の登場
―左殺しの秘策
遠山 野村監督から直に言われたのは「左バッターのインコースに投げられないか?」という事だけだったんですよ。「投げれますよ」と、そこは僕はウソでも言っちゃえみたいな感じで(笑) まあやってみてどうにかなるやろと(笑)
左バッターのインコースに投げ込むには勇気が必要。その度胸を野村監督は見込んだのだ。実は当時の遠山は投手転向に失敗。プロ13年目の32歳末は戦力外瀬戸際。投手として再起できるか否か。このチャンスに懸けるしかなかった。そしてインコースに投げ込むためにまず始めたのがまずフォームの改造。それまでのスリークォーターから腕を更に下げ、球界でも希少な左のサイドスローへ転向。
![]()
それによりインコースへのボールが背中から来るように感じる軌道となり、左バッターはより恐怖を感じるようになった。
![]()
そしてこの左殺しの投法が当時最強のバッターに最も勢力を発揮したことで遠山はその名を上げ、生き残ることかできたのだ。
―松井秀喜への投球術
遠山 インコースはやっぱり半分以上使ってましたね。僕の場合はここを攻めるんですよね。
![]()
遠山 僕はシュートを投げますので、ここをバッターが意識してくれたんですよ。それである程度のボール球でも振ってくる。そこで松井選手がどう反応してくるかをまず見るんですよね。様子見のインコースで少しでも打つ形が変わればアウトコースっていう攻め方をしてましたね。
インコースへボールになるシュートでしつこく攻め続け、松井を手玉に取ってきた遠山だったがマウンドに上がる前はどうだったのだろうか。
―松井との対戦前の心境は?
遠山 僕はブルペンで「うわ、また松井かあ・・・」って感じでしたね。ハハハ(笑) ましてランナーを背負って投げていかないかんというのはね。やっぱりしんどいと言うよりも、物凄く集中しましたね。
遠山にとって左殺しは生き残る術。だからこそ常にその怖さを感じていたという。
―怖さを感じていた
遠山 結果なんですよ。1年間良かったから、こうやって左殺しの継投で出ましたけど。だから1回目で失敗していたら、それは多分なかったと思いますよ。
遠山はここで終了
再びノムさん登場
―松井を抑え込んだ遠山について
野村 大した力のあるボールは持ってないのに向かっていく気持ち。「打てるもんならうってみやがれ」というのがピッチャーだから。それくらいの自惚れがある人がピッチャーに向いてるんですよ。
―遠山にはそれがあった?
野村 そういうのを持っていたと思う。大成功ですね。
以上です。
この時代の松井を1シーズン完璧の抑えるのは凄い。