202021日にBS1で放送された『球辞苑』で権藤博がチェンジアップについて語っています。

 

少し捕捉説明をしておくと、チェンジアップには『来ない系のチェンジアップ』と『落ちる系のチェンジアップ』がある。権藤が投げていたのは球速自体が遅い『来ない系のチェンジアップ』にカテゴライズされる。所謂『落ちる系のチェンジアップ』が現代の投手が投げているチェンジアップとなる。

 

権藤博は投手として、指導者として60年近くチェンジアップと向き合ってきた。権藤は1961年にルーキーながら35勝を上げ新人王と沢村賞を獲得。当時ほとんどいなかったチェンジアップの使い手として球史にその名を刻んだ。

 

―テーマはチェンジアップ

権藤 チェンジアップなんてものはまやかしの球ですから。

 

―チェンジアップを投げるキッカケは?

権藤 プロに入って2年目ぐらいですかね。連投するもんですから、球もいかない。だからそこでスーッと投げた真っ直ぐが効くなあと思って。まあそれがいわゆるチェンジアップですよね。私のは真っ直ぐが速くて、チェンジアップはちょっと遅い真っ直ぐですから。強弱を付けた真っ直ぐという意味なんですよね。

 

当時の権藤といえば「権藤、権藤、雨、権藤」という言葉が生まれるほど連投に次ぐ連投だった。そして2年目のシーズンに体力の消耗を少しでも抑えるために抜いた真っ直ぐで緩急を付け、バッターを打ち取るようになったのだ。

 

 

権藤 そんなしょっちゅう使うもんじゃないですからね。1試合のうちに何球かしか投げないんですよ。それもやっぱりクリーンアップにしか投げないですからね。長打力のあるバッターにしか投げないんです。「ストレートが来た!」と思って打つとボールが来てませんからバットの先に当たってショートゴロとかになる。

 

―長嶋茂雄にはチェンジアップを投げたくなかった

権藤 長嶋さんとは抜くとか考えずにもう力勝負を目一杯いきたいというのがあったんです。

 

―王貞治にも投げてない?

権藤 投げてないです。ワンちゃんにはカーブを投げて、インコース真っ直ぐを投げて、外に抜くスクリューボールみたいなのを投げたんですけどね。よく三振も取ってるけど、ホームランもめちゃくちゃ打たれてますからね。

 

―王貞治にチェンジアップを投げたらどうなっていた?

権藤 効くでしょ。要するに曲がり球というのはバッターからは変化が分かる(見える)んですけど、速いか遅いかはバッターからは分からないんですよ。遠近感が分からないのがチェンジアップのいいところなんですよ。

 

―チェンジアップの握りは?

権藤 握りは真っ直ぐと一緒。全力で腕を振るのが150キロだったら、力を入れずに腕を振るのが140キロ。握りは一緒なんです。握りは一緒なんだけど、腕を振る瞬間は目一杯いかない。力を抜きはしないけど、力を入れない。

 

―権藤博のチェンジアップとは

権藤 私の場合は真っ直ぐのスピードを変えたのがチェンジアップなんです。

 

 

1960年代にマスターしたそのチェンジアップは球速差で惑わす『来ない系チェンジアップ』である。では近年の『落ちる系のチェンジアップ』をどう見ているのか。

 

―落ちる系チェンジアップについて

権藤 最近スゴくチェンジアップが多いですけど、みんな握り方が全然違ってて、なんかパームボールのような落ちる球種になってる。今の投げてるチェンジアップというは、チェンジアップと表現してるだけで、私はチェンジアップとは思ってないです。あれはフォークか、スプリットか、スクリューか、そういう球だと思ってますから。

 

―落ちる系チェンジアップの使い過ぎに警告

権藤 それぞれ選手が自分なりの投げ方を覚えて、その落ちる球をスゴく有効に使ってるけど、そういう球を使ってる人は長続きしないです。落ちる球を使うとバッターはクルクル回るんですけどね。効き目があり過ぎるから段々と効かなくなる。余りにも効き目があり過ぎるもんですから、結局そこに頼ってしまうもんですから、本来の真っ直ぐに頼り切れなくなるんですよ。やっぱり自信のない真っ直ぐを投げてたんじゃピッチャーは通用しないですから。それで潰れていっちゃうピッチャーは多いですね。だから『チェンジアップは劇薬』というのはそこなんですよ。

 

―チェンジアップの使い方

権藤 チェンジアップは勝負球に使うためじゃないんですよ。他の球を生かすためにチェンジアップを投げるもんなんです。チェンジアップが主になってくると、もう他の球とのバランスが崩れてしまう。チェンジアップが通用しなくなって、他の球も生きなくなる。

 

 

―チェンジアップ依存から抜け出した最近の投手

権藤 巨人の田口もスゴくいいチェンジアップを投げてたんですけど、結局あれに頼り過ぎたために、あれに相手が手を出さなくなったんですよね。だけど、奴が賢いのは昨年(2019年に)真っ直ぐの力が増したんですよ。だからチェンジアップを使わなくって、そして真っ直ぐが良くなったんで生き残ってますよね。

 

巨人の田口麗人は2017年13勝を上げるなど2年連続で二桁勝利をマークしたが、2018年には2軍に転落。しかし、2019年には真っ直ぐとスライダー主体のピッチングにモデルチェンジし、セットアッパーとして復活を果たした。

 

―チェンジアップを投げる上で最も重要なことは?

権藤 一番必要なのは勇気だけです。緩い球をソーッと投げるわけですから、球が動くわけじゃないですから。だから勇気がいるんですよ。

 

―チェンジアップの指導法

権藤 教えるときに「真っ直ぐ、真ん中、緩い球、必要なのは勇気だけ」と言うんですよ。技術も何もない。ブルペンで練習することもない。何の変哲もない球をゆっくり真ん中に投げるというのが、一番バッターが困るんですけど、分かってても投げれないです。打たれたくないけど、投げれないんですよ。やっぱり長いこと野球をやってたら速い球をより速く、よりキレが良くてというのをやってるんですからね。チェンジアップというのは、そういうものとは全く別の球ですから、理想ではない球を投げるわけですから。ただ、投げられるかどうかだけです。勇気があれば、持ってる真っ直ぐがもっと生きるようになる。他の変化球ももっと生きるようになる。チェンジアップはそのための球種。

 

 

以上です。

左のチェンジアップ投手が長続きしないのは副作用がありそうですね。
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