2020年12月5日にBS1で放送された『球辞苑』でメジャーやロッテで活躍した小宮山悟が『ど真ん中』について語っています。

 

小宮山悟
現役時代に『ミスターコントロール』と言われた制球力とクレバーな駆け引きで日米の打者を手玉に取った理論派投手。2019年には母校である早稲田大学の野球部監督に就任。大型左腕の早川隆久を育て2020年11月には見事東京六大学野球秋季リーグ優勝に導いた。

 

―テーマは『ど真ん中』について

小宮山 ど真ん中で深掘り(笑) どうですかねぇ・・・。

 

小宮山悟がメジャーから復帰して引退までの2004年から2009年までのデータでは『ど真ん中の投球割合』が7.7%で2020年の12球団のピッチャーの平均5.5%よりも大きく上回っている。特に投球数が多いのが初球で83球だった。

 

小宮山のカウント別ど真ん中投球数(04~07)
0-083球 2-017球
0-140球 2-123球
0-211球 2-226球
1-042球 3-03球
1-142球 3-16球
1-222球 3-28球

(データスタジアム調べ)

 

 

―初球にど真ん中が多い理由は

小宮山 打たないと確信しているから。ある程度データがあって、初球は手を出さないバッターであれば、気を使って四隅に投げる必要はないんですよ。何も考えずに真ん中に。もうブルペンで投げるように「はい ストライクいきまーす」っていう感じで投げるということ。

 

小宮山は初球に労せずストライクを取ることを非常に重要視している。

 

―初球ストライクを重要視する理由は

小宮山 今、学生相手に指導しているんだけど、学生にも口酸っぱくなるくらい言っているのは「3球投げるまでに2ストライク追い込め!」って。それで追い込むことによってバッターの打率がビックリするくらい低くなるんで。だから初球に苦もなくストライクが取れたら、あと2球のうちの1球をファウルでカウントを取れると考えると物凄くピッチングが楽になるんですよ。そんな中、初球を見逃すバッターがいたら、もう3球以内で勝負がつくというピッチングになるんで。そうすると球数が少なくて済むので。私はその考えで試合を投げると、物凄く楽に投げられましたね。完投したゲームは大体ど真ん中でカウントを取れていたので、下手したら1試合で15球から20球はど真ん中があったんじゃないかな。

 

―そういう試合ではキャッチャーがど真ん中を要求することも?

小宮山 いやいや、キャッチャーはちゃんと四隅に「ここ投げてください!」って構えます。でも球種のサインが出て四隅を狙うような要求があっても、「はいはい」って言いながらど真ん中にいく。キャッチャーはそういう時にヒヤッとするんじゃない?(笑)

 

―キャッチャーが里崎でも投げた?

小宮山 投げてました。サトもボールを取りながら「危ないところに放らないでくださいよー」みたいな感じで返してましたね。ああ見えてと言ったら語弊があるけど、相当細かいところまであいつは見てるので。相手のバッターを近くで見ながら、「こんな感じ」「あんな感じ」っていうのを相当気を使いながらピッチャーをリードしてるキャッチャーでしたから。

 

更に小宮山は『ど真ん中』をカウント球としてだけなく勝負球として有効に使っていた。特にその割合が多かったのがフルカウントで15.1%だった。

 

小宮山のカウント別ど真ん中投球割合
0-07.2% 2-012.5%
0-17.2% 2-112.1%
0-24.6% 2-29.9%
1-09.5% 3-06.7%
1-19.7% 3-19.8%
1-25.8% 3-215.1%

(データスタジアム調べ)

 

 

―フルカウントでど真ん中を使う理由は?

小宮山 これは10分の7を求めてるからです。

 

―10分の7とは?

小宮山 いいとされるバッターは3割バッター。そんなバッターでもヒットになるのは10分の3ですよね。でも10分の7は凡打になる可能性があるということで、細かいところを狙ってフォアボールで塁に出すんだったら、仮にヒットを打たれる可能性があったとしても、10分の3より10分の7の打ち損じに賭ける

 

そして勝負球のど真ん中で最も効果的だった球種はストレートだった。

 

―ストレートが効果的だった理由は?

小宮山 基本的に相手バッターが「変化球を多投するピッチャーだ」と思っているはずなので「コントロールがいい」と思ってくれているので「両サイドにきっちり来るだろう」と思っているところで、ど真ん中にドーンっといって、相手バッターが差し込まれるっていうことが結構ありましたね。スライダーでくるだろうなとみんな思っている節があるので。今だから話すけど、そんなにスライダーに自信がなかったので。メディアも含めて「スライダー」「スライダー」って言ってくれていたので、それに乗っかって「俺はスライダーピッチャーだぜ」みたいな態度を取ってましたけど。

 

「小宮山は変化球でコーナーを突いてくる」という先入観を逆手に取ったど真ん中のストレートは効果的だった。但し、140キロにも満たないストレートで打ち取るには球速以上にボールを速く見せる技術が必要だった。

 

 

―速く見せる技術

小宮山 最近流行りのチェンジアップを見ていると、ボールを力いっぱい投げる姿で抜くというのは有効ですよね。それで私がやっていたのはその逆です。そこまで力いっぱい投げているように見えないのに実はボールがスゴい勢いで来るという。18メートル先にいるバッターが誤差を感じるように投げることができたら、こっちの勝ちだという感じです。

 

(続けて)

 

小宮山 例えばリリースポイントが自分の顔付近だったものを、10センチぐらいバッター寄りにもう少し前でリリースするだけでバッターは差し込まれる可能性があるので。更に言うと、そのリリースポイントを見づらくする技術。だから投球フォームで投げる腕をしならせてリリースする時にバッターになるたけボールを見せないような腕の軌道に持って行く。

 

 

小宮山 この状況をキープしたままどれだけ前にいけるかです。投げる心構えとしては胸をバッターになるたけ見せないようにギリギリまでいって、投げる瞬間の最後に体をパッと回してあげるという。これ以上、前に行けませんというところで体をパッと投げれるようになると135キロでもバットをへし折ることができる。

 

こう語るが時には投げミスでど真ん中に行ってしまったボールもあり、痛打されることや結果オーライの場合もあった。しかし、これもただの失投にはしない。

 

 

―投げミスも失投にしない

小宮山 ボールが手から離れた瞬間に「あっ!」と思うことが結構あります。これで打たれた時は「やっぱりな」ですけど、もし見逃したり打ち損じたりすると「しめしめ・・・」なわけですよ。そうするとバッターの方が「打ち損じた」という態度を取ってくれることが多いですから。「しまった!」みたいな態度が見えた瞬間にもう「あぁ、この勝負勝ったな」と思いましたね。

 

(続けて)

 

小宮山 偶然そこに投げミスしたにもかかわらず「そこ狙ってしましたけど」という態度を取るようにしてましたね。やっぱり基本的に素直な奴が多いんですよ。見逃したときに「カーッ!」となる選手がね(笑) そんな姿を見た瞬間にこっちは笑いを嚙み殺すのに必死ですよ(笑) 「バカだなぁこいつ(笑)」って態度に出したいんですけど、それを堪えてポーカーフェイスでしれっと投げてました。

 

―早稲田のピッチャーにもその投球術を伝授しているのか?

小宮山 そんなことを言うわけないじゃないですか(笑) 「四隅にきっちり狙って放れ」って言ってますよ(笑) 学生に「ど真ん中に放れ」なんて口が裂けても言えない。そんなのは自分で投げて覚えろって話。そんなもん、楽させてどうするんですか!(笑)

 

―最後に小宮山悟にとって『ど真ん中』とは?

小宮山 バッターを抑えるために優位に立てるポイント。そこに行ったそのボールをバッターが打たなかった打ち損じた、みたいなことでこっちがかなり優位に立てる。そういうつもりで投げてた節があるので。

 

 

以上です。

理論派の小宮山。
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