2018年3月に読売テレビで放送された「あすリートスペシャル」で元巨人の桑田真澄と阪神タイガースの藤浪晋太郎が対談しました。藤浪へのアドバイス、投手の技術論などを語り合っています。
もくじ
お互いの印象
【対談前、桑田が持つ藤浪の印象】
桑田 どうして上手くいかないだという暗中模索の中でやっているように僕は見えますね。僕の考えが正しいわけではないんですけど、参考にして彼なりのものを見つけてもらいたいと思います。
【対談前、藤浪が持つ桑田の印象】
藤浪 新しい色んな理論を持っている人かなっていう。いい話ができたらいいなと思っています。
最初の挨拶
桑田 高校時代からずっと見ていたから、同じ甲子園の優勝投手としてね。
藤浪 はい。
桑田 凄く頑張ってほしいなという思いと。日本のエースになってもらいたいと思っていて、またなれると思ってずっと見ていて。今日こうやって話ができるということで僕も楽しみにしていて・・・嫌だった?(笑)
藤浪 いえ、凄く楽しみでした(笑)
本格的に対談開始
藤浪 桑田さんの解説とかを何回も聞かせていただいたことがあるんですけど、アウトローに投げ込むコントロールがあれば150キロの速球はいらないという話をされていたことが確かあったと思うんですけど、(速球派の)自分を評価しているのは相反するところではないかと思って自分の中で1つ疑問だったんですけど。
桑田 なるほどね。僕がもし藤浪君だったら理想のピッチャーだと思うから。僕には『投手の条件』が3つあって、まず1つ目に背が高いということ、2つ目にボールが速い、それで3つ目にコントロールだと思っているんですね。
藤浪 はい。
桑田 そのうちで藤浪君は2つ(高身長と速球)は持っているわけで。なんとかコントロールさえ少し改善できたら日本のエースになれるなと思ってずーっと見ていたんだけど。
藤浪 ありがとうございます。
桑田 僕はお世辞を言えないタイプなんでストレートにお話をしようと思うんですけど、自分でも全然満足してないでしょ?
藤浪 はい。全然ですね。まだまだ。
桑田 よくメンタルとか言う人がいるでしょ。
藤浪 はい(苦笑)
桑田 全く問題ないと思う。恐らくメンタルは強いと思う。強くなければ甲子園で優勝なんかできない。
藤浪 自分もそう思いますね。メンタルが弱いとかよく言われるんですけど。走り込みが足りない、投げ込みが足りないとかって。
桑田 僕は全くそういうのは思わない。藤浪君に足りないのは何かというと。ズバリ言いますけど、僕は技術力だと思う。
藤浪 はい。
桑田 技術力ですよ。フォームさえ「あ、これだ!」というのさえ見つかれば全てクリアすると思う。
藤浪 はい。
投手の技術の話
桑田 フォームでどこを気を付けている?
藤浪 まあ、トップの早さ。体が大きいし腕が長いんでトップが遅れると収拾がつかないぐらいブレるのでトップがまず遅れないように。
桑田 うん。ピッチャーで凄く大事なことは言葉にだまされるんですよ。例えばさっきトップという言葉が出たけど、トップを早く作るとか高く作るって正解のように聞こえるでしょ。
藤浪 はい。
桑田 でも、実はそういうふうにすればするほどリリースに向かって肘が下がっていくんですよ。我々ピッチャーにとって大事なのはトップ?それともリリース?
藤浪 リリースです。
桑田 リリースだよね。リリースを1番意識しなきゃいけないよね。だから、僕は野球界の考え方で「ピッチャーのトップ」って良くないと思っているんですね。
藤浪 はい。
桑田 面白いことにフォームを撮影すると必ずトップの場面の写真が出るんですよね。だから、みんなトップが理解しやすい解釈しやすいから言うんですけど。僕はトップを意識したことがないんですね。
藤浪 (何度も頷く)
桑田 できたらキャッチボールやりたいけどね。
藤浪 はい(笑) 是非やりたいです(笑)
桑田 今、恐らく上手くいかないのは・・・僕の中で見ていると腕を振ろうとけっこう意識しているでしょ?
藤浪 そうですね。ここ一番で腕振ってやろうとガッとしていますね。
桑田 でしょ。腕が勝手に振られるような体の使い方をしなければいけないんですね。僕はよくピッチングを「自転車」に例えるんですけど。自転車でスピードを出すにはハンドル頑張る?それとも脚を頑張る?
藤浪 脚を頑張りますよね。
桑田 そう。それじゃあ、コーナー右に曲がります。足を頑張る?
藤浪 ハンドルですね。
桑田 手でしょ。今、藤浪君の場合は脚はしっかり漕いでいるんだけど中々スピードが出ないから手も頑張っているみたいな。
藤浪 両方やっていますね。
桑田 うん。そういう感じになっている。スピードは脚、体幹で出して。コントロールはそこから上半身が勝手に振られてスピードを出す必要がないから、「(リリースの位置を変える動作をしながら)インコースのリリースはこうか、アウトコースのリリースこうか、高めはリリースこうだな」っていう微妙なリリースの位置の操作ができるようになると楽しくってしょうがないですよ。
桑田のピッチング理論を藤浪はどう受け止めたのか
藤浪 凄い技術力(フォーム)だと自分も思っていて。根性論とか精神論とかが足りてないんだと凄く言われるんですけど。
桑田 あのマウンドにいて根性があったら抑えられる?無理でしょ?
藤浪 はい。間違いないと思います。ちょっと失礼かもしれないですけど、珍しいと思うんですよ。桑田さんの世代の方々でPL学園という学校でやられていて、そういう部分が色濃い学校じゃないかなっていう。
桑田 うん。確かに。仰る通り(笑) あと、コントロールにも段階があると思っているんですね。今は150キロのストレートがあるわけだから四隅を狙うコントロールはいらない。高めなのか低めなのか。インコースかアウトコースか。僕はこれをよく『ライン出し』と言うんだけど。野球というスポーツはどこがヒットになるかというと真ん中周辺がヒットになる。それが野球というスポーツ。
藤浪 はい。
桑田 真ん中を避けるとライン出しにならない?
藤浪 はい。なりますね。
桑田 ここに(ライン出しのゾーン)さえ投げておけばスピードがあるんだからいい当たりされても正面に行く。これが野球というスポーツ。
藤浪 不思議なんですけどね。
桑田 不思議だよね。
藤浪 はい。捉えられてもセカンドライナーだったり、真ん中低めがちょっと浮くとそれがセカンドの頭を越えていったり。
桑田 そう。ラインよりも内に入っているからちょっとヒットになる。
桑田が藤浪に求めるピッチャー像
桑田 僕が藤浪君にはこういうピッチャーになってもらいたいんですね。
藤浪 はい。
桑田 先発して8回に5-1で勝っています。もう楽勝です。あと8回、9回の6人のバッターに対して全部ストレート。
藤浪 (大きく頷く)
桑田 前に飛びません。飛んでも内野フライ。それでチップや空振り。今、そういうピッチングができるのは藤浪君だけだと思う。そういう姿をファンの人は喜ぶと思うよ。
藤浪 そういう事ができれば間違いなく喜ぶと思います(笑)
桑田 是非、頑張ってください。
藤浪 ありがとうございました。
最後に握手をして終了。
以上です。
なかなか実りのありそうな対談でした。これは2018年の4月に行われた対談です。