2018年7月21日にBSジャパンで放送された「日経プラス10 サタデー」でスポーツと経済をテーマに元福岡ソフトバンクホークス取締役の小林至、番組MCのテレビ東京アナウンサーの水原恵理、こちらも番組MCで日経系列の記者の山川龍雄、第一生命経済研究所の永濱利廣、ジャーナリストで法政大学教授の荻谷順、大和証券の木野内栄治が語っています。
水原 ここからはスポーツと経済というテーマで進めていきますけども、まず小林さんプロ野球球団を企業が所有するメリットを教えてください。
小林 企業が所有するメリットは圧倒的なブランド価値です。プロ野球をかつて持った企業で言うと、日本ハム、ロッテ、オリックス。こういった企業があるじゃないですか。
水原 はい。
小林 これらの企業は球団買収後、業界トップ、或いは世界的企業になっていますよね。
【企業がプロ野球球団を所有するメリット】
日ハム 売り上げが増加 業界トップに
SB低認知度が大幅アップ1兆円企業が9兆円企業に
楽天 低認知度が大幅アップ1200億円の売上が1兆円目前に
小林 そして、福岡ソフトバンクホークス。私がいた球団ですけども。当時のソフトバンクの認知度は全国民の10%ぐらいだったんですよ。これが一夜にして100%になった。
山川 みんなが知るようになったんですね。(※山川氏は番組MCなのでこの後もバンバン喋ります)
小林 ですね。それで、孫(正義)さんとお会いした時にいつも言っていたのが、「だいたい400億円から500億円ぐらいの広告宣伝の価値がある」と、そういうふうに言っていました。
山川 うん。楽天もそうですよね。
小林 楽天も当時は必ずしもみんなが知っている企業ではなかったじゃないですか。ところが、押しも押されぬ大企業になって、売り上げも1兆円目前に迫っている。ということで、12の球団を某国営放送までもが試合結果を企業名入りで放送してくれる。あれはゴルフのトーナメントだと『男子国内ツアー』としか紹介してくれないんですよ。
山川 フフフ(笑)
小林 そのNHKが全部、企業名から球場名から全てネーミングライツが付いているのをキチっと放送してくれる。報道として。
山川 まあ、ソフトバンク楽天と連呼するわけですからね。
小林 この効果はデカいですよ。
山川 うん。
小林 それで、僅か12しかないというのが、またミソでいいんですよね。
山川 うむ。しかも、特に最近ではIT企業がスポーツに物凄く関心を持つじゃないですか。このIT企業と球団経営というのは相性がいいんですか?
小林 そうなんです。要するにIT企業って基本的にはデータベースマーケティングじゃないですか。
山川 はい。
小林 お客さんのデータを頂いて、そのデータを基にした属性を使って様々な自分のところの商品を売っていくわけですよね。旅行であったり、クレジットカードであったり、もちろん商品でったりもあるんですけども。
水原 うん。
小林 プロ野球の場合は皆さんが喜んで属性を出してくるんですね。ファンですから。普通の場合、メルマガ会員になってくれと言われると『何かが後ろにあるな?』と思うじゃないですか。
山川 うん。
小林 ところが、プロ野球球団のメルマガ会員には喜んでなってくれるわけですね。更に来場客がだいたい年間に200万人以上いる。この200万人の来場客の属性を含めて、更にファンクラブの属性も含めて、データを取り入れた上で、スマホとPCを通じた様々なプラットフォームのビジネスを展開できる。
山川 うーん。
小林 という点に於いて、非常に親和性が高いんですよね。
山川 この辺りはいかがですか?(※この日の出演の経済専門家に話を振る)
永濱 そうですね。まさに仰る通りだと思うんですけど、私がよく聞くメリットという意味ではコストが掛かったりしても、経費で節税できるという効果もあるし、あとよく聞くのが球団を持つことによって従業員の人たちが一体感を得られてモチベーションのアップに繋がることもあるみたいです。(※第一生命経済研究所の永濱利廣 ちなみにこの永濱氏は巨人ファンのようです)
小林 グループ企業の統合の象徴という言い方をする球団が多いですね。
山川 あぁぁ。
小林 はい。地元のファンだけでなく、大きな企業のグループですから。その統合の象徴で実際にホークスが東京ドームで試合をすると2万人のグループ社員が一斉に駆け付けますから。これはまた異様な感動を生む空間に変わるんですよ。
荻谷 確かに電機メーカーだとか、一般の人たちに近い企業でもあっても、消費者は商品を買ったメーカーを応援するという気持ちにはならないですよね。(※ジャーナリストで法政大学教授の荻谷順氏)
山川 うん。
荻谷 ところが、プロ野球の球団を持っていると、例えばヤクルトを届けてくれるおばさんを応援するんじゃないけど、何となくヤクルトを応援するというね。従業員だけじゃなくて、消費者の方も一体化してくる要素はあるのかもしれないですね。
山川 しかも、以前はどちらかと言うと、ジャイアンツと試合をしないとなかなか元が取れないとか、テレビの放映権ですよね。特に地上波ではかなりの視聴率を稼いでいたんで、当時はそこに寄りすがっていたところがあったんですけど。なので、なかなか採算が取れないという話があったんですけど、最近はそうでもなくなったんですかね?
荻谷 だから、発展途上型、経済成長期型のプロ野球と今はだいぶ違ってきていると思うんですよね。
山川 うん。
荻谷 日本のプロ野球の最初は例えば、読売ジャイアンツ、毎日オリオンズ、中日ドラゴンズの新聞社ですよ。これは何のために球団を持ったかと言うと、新聞をたくさん買ってもらうため。そのうち、大映とか東映とかの映画会社が出て来ましたね。そして、それがロッテ、ヤクルト、日本ハムの食品メーカーになってきた。そして、最近はIT企業と。だから、その時代によってプロ野球を企業のマスコットであり、象徴として使う、利益の基として使う産業が変わってきている。
山川 うーん。
荻谷 ひょっとすると、今後はIT企業じゃないものがプロ野球球団を持つようになってくるかもしれませんけど。先ほど、小林さんが言われた12という枠、12球団という枠はプロ野球球団の言ってみればギルドですよね。
山川 うん。
荻谷 その中に入れるか入れないかというので、例えば、堀江さんの時なんかは「あんな奴に球団を作らせていいのか」なんてことを言われました。そして、申し訳ないけど、ヤクルト日本ハムが球団を持つ時にも実は抵抗があったんですよね。でも、そんなものは乗り越えてしまったんですから、IT企業が球団を持ちたいと言って持つのは時代の流れなんでしょうね。
山川 木野内さんはいかがですか?(※大和証券の木野内栄治 株の専門家)
木野内 これは非常に国民に親しみに持ってもらうという効果があると思うんです。例えば、アマゾンなんかは非常に便利なんですけど、アマゾンのおかげで地方の小売店が随分やられてしまっている、アマゾンエフェクトっていうネガティブなことも言われるわけですよね。ともするとIT企業の楽天さんなんかもそういうふうな非難を浴びかねないかもしれないんですが、イーグルスを持っていることでそういう非難を免れている隠れた効果もあると思いますね。
山川 うーん。小林さん、ロッテは球団買収を拒否してしますけど、そうなるとZOZOが球団経営に乗り出せる可能性はほとんどない?
小林 決してそんなことはなくてですね、プロ野球の12球団のオーナーが全球団、どこも未来永劫持ちたいというわけではないと思うんですよね。
山川 うん。
小林 それはやっぱり時代によってオーナーは変わっていくもんであるし、やっぱり新しい風が吹いた方がいい時もありますね。但し、その場合にはそれまでの球界を支えてきたという事に対するリスペクトと高級制会員クラブに入る、入り方の作法。
山川 うんうん(笑)
小林 プロ野球は決してTOB(※株式公開買い付け 友好的、敵対的のどちらの場合もある)ではないんですね。
水原 うーん。
小林 入る前は超友好的に前の形をできるだけ引き継いでいくというのがプロ野球の作法ですから。そういう形で入ってくれば可能性はゼロではないと思いますね。
以上です。
けっこう長いですけど、色んな話が詰め込まれていて面白いと思います。ZOZOの前澤社長は作法を理解してやれるのでしょうか。