2017年12月にBS1で放送された『球辞苑』で西武ライオンズで活躍した東尾修がインハイへの投球、投球術について語っています。

 

東尾は死球覚悟のインハイ攻めで乱闘騒ぎになることもしばしばあった。決め球はアウトコースへのスライダーで、この決め球を生かす最大の武器こそインハイだった。

 

―インハイ攻めの原点

東尾 高校生からプロ野球に入った時に『黒い霧事件』という不幸なことがあって、僕の2年目から先輩のピッチャーがいなくなったもんだから、1軍で投げる力がないのに投げさせてもらえたということがまずひとつあるんですよね。そこから投げても投げても、2年目も18敗かな。3年目も25敗とかでパ・リーグの年間敗戦記録を持っているんですよ。負けることからスタートしたから、その悔しさですよね。

 

東尾の西鉄時代の4年間の年度別成績

年度登板勝利敗戦
69802
70401118
7151816
72551825

 

―プロ入り当初の東尾の持ち球はストレートとカーブだけだったので新しい球種を覚えることに

東尾 先輩にスライダーが得意な池永さんとか稲尾さんがいたっていう。高校時代はスライダーという球種を知りませんでしたし。(※稲尾和久と池永正明は西鉄黄金期のエース)

 

ースライダーを生かす投球術が生まれた経緯

東尾 河村さんというピッチングコーチの方が来られて「インコースを徹底的に攻めろ」と。

 

 

河村英文は1953年~1963年の現役時代にシュートでえぐる内角攻めを得意とした西鉄の主力投手で通算113勝83敗。1972年にピッチングコーチに就任すると東尾にスパルタ指導でインハイ攻めを指導したという。

 

 

―河村の指導方法

東尾 真っ直ぐでインサイドを投げ分けられるかどうか。例えばコースいっぱい、ボール半分、ボール1個分、ボール2個分の投げ分けをバッターボックスの白線とホームベースの中でコントロールする練習ですね。これをクリアしないと、ノックバットの先でコツンと叩かれるんで(笑) そういう人と巡り会えたのが始まりですよね。

 

―インハイを制する東尾独自の技

東尾 真っ直ぐと同じ軌道のインハイからスライダーを曲げる。相手が逃げるから、ボールからストライクになるスライダー。これが僕の一番の武器になりましから。

 

当時のスライダーはストライクゾーンからボールゾーンに変化させて打ち取るボールだった。ところが東尾は右打者のインコースのボールゾーンからストライクに入れるインスラという独自の技を習得。これによりインハイは見せ球だけでなく見逃し三振も取れるコースとなった。

 

 

―インスラを使い始めた経緯

東尾 阪急をやっつけるために右バッターのインスラを使い始めたのは長池徳士さんがターゲットだった。

 

長池徳士は阪急黄金期のスラッガーでミスターブレーブス。東尾が最も苦手とした打者の一人だった。

 

東尾 あれだけのバッターですから。外ばっかりではダメで踏み込んでくるから。当時福本豊という人がいたから、1アウト3塁というケースで犠牲フライを防ぐ。シュートをよく投げてましたから、シュートを見せてインスラ勝負したら見送り三振を取れるという発想でそれからどんどん使い出しましたね。

 

―激しいインコース攻めの結果

東尾 デッドボール日本一ですから(笑) 僕は165個もぶつけた・・・いや、ぶつけるんじゃない(笑) 当たった(笑)

 

 

東尾の通算与死球165はプロ野球歴代最多。人は東尾の投法をケンカ投法と呼んだ。中には当てた後に一触即発になることもあったが、そこには東尾なりの哲学があった。

 

―『インハイ攻め』を貫く勝負哲学

東尾 (若い頃は)厳しいコーチが来て「インサイドに投げろ投げろ」と言うから、当たってしまったんですよ。技術がなかったから。晩年のデッドボールはコントロールがいいから当たったんですよ。僕は70%が右バッターの外に投げてましたよ。それでバッターも踏み込んでくる。それで読みを間違えてキツイ踏み込みをして来た時に当たる。踏み込んで来るから逃げれない。だから、僕はその時は全然頭も下げないですけどね。だから逃げる義務があるんですよ(笑)

 

―誰からも逃げない

東尾 外国人選手が当てたらマウンドまで来てピッチャーが逃げたりするじゃないですか。あれで逃げまくるのは最低でしょ。若いピッチャーに対しては誰が来ようとマウンドからは逃げるな、降りるなって。マウンドから飛んで逃げるな!と。

 

1986年に近鉄のデービスにぶつけてマウンドに突進してきても東尾は殴られる寸前までマウンドを降りていない。

 

―逃げないことについて

東尾 僕のスタイルです。当たっても仕方ないという気持ちを持つことが大事だし。相手も内角攻めから逃げてくれるし、逃げる必要もある。僕はピッチャーに言いたいです。当たってもしょうがない。

 

―最後にインハイの極意は?

東尾 一番大事なのは気持ちじゃないですか。攻める気持ち。何でも僕は常に攻める気持ちで投げるのが一番だと思う。気持ちと技術。

 

 

以上です。

当たっても仕方ない。

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