2017年にBS1で放送された『球辞苑』で阪急ブレーブスなどで活躍した松永浩美がスイッチヒッターについて語っています。
―スイッチに転向したきっかけは?
松永 当時、私をよく指導してくださった住友さんというコーチの方が「おい ちょっと左で打ってみろよ」って言ってくれて、「えっ?」みたいな感じからスタートですよね。最初はもう嫌々打ってたんですよ。それでたまたま宿舎に帰って、先輩と一緒の部屋だったので、先輩にグチるような感じで「なんで左をやらなきゃいけないんですかね」みたいな話をしてたら、たまたま住友さんが廊下を通りかかってドアが開いていたんでそれを聞いていた。「今の日本のプロ野球界のスイッチヒッターはみんな当てて内野安打とか足が速いっていうイメージというのがあるんで、海外にはエディ・マレーという選手がいて、1試合で左でも右でもホームランを打つような豪快な選手がいるんだから、お前もそれに取り組んで日本の野球界に革命を起こさないかって言われて、「革命か・・・」って。やっぱ男って革命とかって言葉に弱いじゃないですか(笑) だから、それだったら「よし やろう!」となって、そこから初めて本気になりましたね。
―左右で長打を打つ極意は?
松永 私の右と左は全然意味が違うんですよ。右の場合はもともと力があったと思うので、ポイントが多少近くても力で強引に持っていけることがあったんですけど、左の場合は誤魔化しが効かないので、やっぱりポイントが変わりますよね。だから、「ホームランが欲しければ前で打て」という感じですよね。
―その言葉の意味は
松永 (バットを持ちながら)基本的に皆さんはピッチャーが投げてきた球に対して、それを捉えてリストターンが入る感じだと思います。私の場合はルーティーンでバットを回す時にヘッドがピッチャーに向けた時のヘッドの位置が打つポイントでそこで捉えてリストターンをしたいんですよ。ちょうどそのポイントでリストターンしてくれれば、多分バットがボールに一番強く当たるというイメージがあるので、左打席ではそこを意識しましたよね。
―飛ばしの極意
松永 基本的にはバットのヘッドを落としたくないんですよ。ヘッドが落ちるとどうしてもバットが遠回りしますから。だから、基本的には今まで使ったことのない右手のグリップを(バットを立てる方に)固定することですよね。固定すると、そのままスイングしてもヘッドは上がったまんまになる。グリップが寝るとヘッドは下がりますよね。そうすると肘も空いて脇も空きますよね。よく脇が空くと言って、色んなことを考えている方がいるんですけど、私はグリップさえ立てることを意識しておけば脇なんて空かないと思っているんで。
―その結果その1
松永 グリップエンドが支点と考えると、腕を使わずに体幹でスイングすると、ここから先(体が前に突っ込まない)にいかないですよ。だから、支点が止まるじゃないですか。その止まった支点でパチンっとヘッドが利くとバットスイングが一番パワー出るんだろうなと思うんですよ。だから、逆に手を使ってスイングしていけば、支点が動きつぱなしになるんで、当然ヘッドはいつまでも支点を追い抜けないですよね。それはつまり体が開いたり、頭が上がったり、ヘッドが落ちたりと色んな悪影響が出てくる。
―その結果 その2
松永 もう1つはポイントが近いところで打とうとすると、どうしても自分とボールに距離がない。そこでどうするかと言うと距離がない分だけ力が入っちゃうんですよ。だからみんなヘッドが下がる。ポイントを前に置くとボールと自分に距離があるんで、十分届くんですよね。いかにミートするまで手を使わないか。
松永流 飛ばしの極意
ミートポイントを前にする
手首を立てる
体幹で振る
―本来の右打席ではどうだったのか
松永 力があったんでグンっと持っていく自信があったんで、持っていくコツを知ってるじゃないですか。それが長年あるんで、もう体に染み付いていたんですよ。だから左をやって良かったなと思いましたよ。左をやってなかったら、多分こんな成績を残してなかっただろうし。左をやったおかげで当時も左ピッチャーが少なかったおかけで私もこの世界で成績を残せたというのがあります。今の時代だったら左ピッチャーもけっこういるので、逆にスイッチやった方が得だと思いますね。やっぱりファンも左でも右でもホームラン打った方が喜ぶしね。大谷君がピッチャーやってバッターやって、みんなスゴいと言うんだから、スイッチで左でも右でも打てば当然スゴいと言われるわけですから。見せてあげるというのが我々プロですからね。
以上です。
スイッチの打撃というよりも普通の分かりやすい打撃理論でした。