2020年12月13日にNHK総合で放送された『サンデースポーツ』で近年ハッキリと出ているセ・リーグとパ・リーグの力の差を梨田昌孝と中日・与田剛監督と上原浩治がNHKアナウンサーと共に語っています。
もくじ
データで見た事実
アナ まず議論の前にセパの差をデータで見ていこうと思います。ソフトバンクで日本シリーズ4連覇を果たしました。この10年で振り返ると日本一のチームはパ・リーグが9回、そしてセ・リーグが1回のみ。2012年の巨人の1回だけなんですよね。
2012年だけ巨人が1回制覇でセ・リーグはその1回のみ
アナ しかも2019年と2020年は巨人が4連敗という結果に終わりました。更に2020年の巨人の日本シリーズでの得点はたったの4点のみ。ソフトバンクの投手力が際立つ結果となりました。そしてソフトバンクの速球派の投手が目立つという印象をお持ちになった方が多いと思います。そこでセ・リーグとパ・リーグの全投手のストレートの球速の平均を調べてみました。(※ここからのデータは全てデータスタジアム調べ)
パ・リーグ 144.5キロ
アナ 実はセ・リーグの方が1キロ平均で速いんですよね。ビックリのデータです。更に最速150キロ以上の投手の数も調べてみました。するとこのような数となりました。
パ・リーグ 81人
アナ セ・リーグが88人でパ・リーグが81人と、セ・リーグがパ・リーグが上回っている結果になっているんです。
データを見た梨田・与田・上原の見解
アナ 梨田さん、パ・リーグの投手はよく『パワーピッチャー』が多いとよく聞くんですけど、この平均球速のデータと速球派投手の数はセ・リーグが上回っているという予想外の結果をどう受け止めればいいんでしょうか?
梨田 ちょっと信じ難いと言いますかね。パ・リーグの方が球も速くて、そういう投手の数もパ・リーグの方が多いと思ったんですけどね。意外に少ないなというのはあります。これは多分ホークス1球団だけが非常に多いということなのかなと。特にホークスの千賀投手というのはストレートが155キロ、そしてお化けフォークという厄介な変化球があって、よりストレートを速く見せるという上手さを持ってるなというのがありますね。
アナ なるほど。もともと速い球を持っているけれども、意識付け出来るストレートをより際立たせる変化球もあると。
梨田 そうですね。他にはオリックスの山本由伸にはカットボール、日本ハムの有原航平にはチェンジアップがあってストレートも150キロを超えるというピッチャーですからね。そしてソフトバンクには千賀以外にも石川柊太という150キロ台中盤のストレートとパワーカーブを投げますからね。際立った変化球があるのでバッターがタイミング的に差し込まれてしまうんですよね。
アナ うーん・・・平均で見たら同じぐらいなんですけど、エース級で見たら突出している投手が多いというのがあるんでしょうかね。
梨田 それはあると思いますね。
アナ では与田さんはその辺についてはいかがでしょうか?
与田 まあセ・リーグも菅野智之投手、そしてうちの大野雄大もいい球を投げますけども。まあ球速以上に速さを感じさせる、パワーを感じさせるピッチャーは確かにパ・リーグの方が多いかもしれませんね。
アナ さあ、上原さんはどういう意見をお持ちでしょうか?
上原 こうやってよくスピードを持ち出して言われてますけど、それはあくまでスピードガンの数字なので。やっぱり体感スピードが大事ですから。150キロでも速いと感じないピッチャーはたくさんいますから。その辺でパ・リーグのピッチャーの方が数字通り来てるのかなと。セ・リーグのピッチャーはもしかしたら数字よりも遅くバッターが感じてるのかもしれないですよね。
アナ なるほど。そういった違いもあるかもしれないと。
上原 はい。
DH制の導入
アナ そしてセパの差を議論する上で世の中でも語られているのが指名打者制度かなと思います。こちら45年前にパ・リーグで導入されて別に最近の話ではないんですが、これがセパの差にどんな影響を与えているのか。梨田さんはいかがでしょうか?(※指名打者制は1975年にパ・リーグで導入されました。1965年~1973年の巨人V9との因果関係があるかは分かりません)
梨田 はい。当時のパ・リーグは人気がないということで何とか打つことによって、ガンガン打つことによって魅力をアピールしようということでDHを採用したんですよね。そしてここに来て非常に差が出てきてるのは感じますよね。
アナ はい。
梨田 私が近鉄の監督時代に岩隈久志というピッチャーがいたんですけど、肩にルーズショルダーという問題を抱えていて立ち上がりも悪いピッチャーで体も細いと。こういったピッチャーは立ち上がりが下手なんですけど、尻上がりに良くなってくるとパ・リーグだと打席に立たないわけですからイニングを投げることができると。
アナ DH制ですからね。
梨田 はい。そうやって経験を積むことによってパ・リーグの高卒ピッチャーが非常に伸びてきてるというのは言えると思います。
アナ 確かに岩隈投手だけじゃなくダルビッシュ有投手であったり田中将大投手であるとか。
梨田 松坂大輔もそうですし大谷翔平もそうですよね。
アナ 次々と名前が挙がってきますね。
梨田 はい。
アナ なるほど。では与田さん、セ・リーグで実際に監督をされている立場でこういう若手投手育成の悩みですよね。「ここを乗り越えてくれたら・・・でも打順が来るから代打を出そうか」とかそんな悩みはありましたか?
与田 楽天の投手コーチ時代に梨田監督のもとでやらせてもらった時には「よし 与田もっと投げさせろ」と。そういうチャンスを与えることができたんですけど、やっぱりセ・リーグの場合だとリードされている展開、例えば70球ぐらいしか投げていなくても代打を送らなければいけないという、先発ピッチャーに我慢ができなくなってしまうという試合もあります。そして1試合4打席というピッチャーの打席にまだ守備が拙いんだけど打席に立たせたい若手とかね、うちで言ったら根尾昴であったり石川昂弥であったりを経験させることができますよね。
アナ うーん・・・。やはりそういう枠があるということは選手のモチベーション的にも全然違いますか?
与田 やはりDHという1つの枠を何とか取ってやろうという野手がライバル争いをすると思いますし競争が激しくなるとチームは活性化しますよね。
アナ なるほど。上原さんはジャイアンツで投げていて、高卒の若いピッチャーも見ていたと思うんですけど、やはり「もうちょっと投げさせてあげたら違うのにな」っていうのは目の当たりにしてきましたか?
上原 やはり実戦で投げて鍛えるというのもスゴく大事だと思うので。練習では鍛えられない部分だと思いますよね。実戦で80球投げるのと100球投げるのと、たった20球かもしれないですけどその20球が肩のスタミナを作ったり肩の強化になると思うので。今は球数問題とか色々ありますけど、投げた方が僕は鍛えられるんじゃないかなと思います。
アナ はい。巷ではDH制はピッチャーではなく強打者が入るということで有利だと言われがちですけど、それだけではなくて選手が育っていく上でも結構大事な役割を果たしているかもしれないですね。
上原 そうですね。今はDHの有無がどうだこうだという話もありますけど、そこが全てではないということですね。1つの要因としてDH制があるんじゃないかということですよね。
アナ DH制度が全てではないというお話がありましたけども、メジャーリーグではこういうデータがあります。メジャーリーグのDH制度のあるアメリカンリーグとDH制度のないナショナルリーグのここ10年間のワールドシリーズの成績がこちらです。
DH制なしのナショナルリーグ6勝
アナ 指名打者制を採用していないナショナルリーグの方が勝ち越しているんですよね。これはどのように見たらいいでしょうか?
上原 うーん・・・。まあ、メジャーリーグと比べるというのはちょっと分かんないですけど、やっぱりソフトバンクというのは選手みんなのレベルが高いですし、「いつ2軍に行かされるんだろう」という危機感を持ってるのがソフトバンクだったのかなという気がしますよね。
アナ どうなんですかね。メジャーリーグの場合はアメリカンリーグとナショナルリーグの間で選手の移籍の頻度が多いですよね。だから選手間のDH制度のあるなしにそれほど影響がないのかなと。
上原 ですからDH制に限って言えば、アメリカでは本当に4番バッターがDHっていうのが多いですよね。打つ事だけに関しては超一流の人がDHになると。日本の場合はDHを取り入れれば、セ・リーグではピッチャーが打つわけではなくて、DHで本当に超一流の人が入るようになれば打者のレベルも高くなるし、ピッチャーのレベルの高くなると思うので、やっぱり取り入れた方がいいいのかなという気持ちはありますね。
アナ なるほど。DHを採用するかしないかで賛否が色々とあるんですが、梨田さんはこの辺についてはどのようにお考えですか?
梨田 アメリカの場合ですか?
アナ アメリカを見て、じゃあ日本でどうするべきなのかと。今はDHを採用した方がいいんじゃないかという意見にかなり傾いていますけども。
梨田 ただね、すぐに採用の方に行かなくても議論はするべきだと。そういう時期に来てるのかなと思いますね。野球の本質というのは当然あるんですけど、やっぱりこれだけセとパの差が付くとそろそろ色んな事を考えないといけない時期に来たんじゃないかという気はしますよね。
三者の提言
アナ さぁというところで、じゃあセ・リーグはどうするべきなのかについてアイデアというか提言を与田監督と梨田さんにフリップに書いていただきました。では梨田さんから。(※なぜか上原のフリップ提示はなしで口頭で答えています)
アナ 『交流戦 逆転発想』ということですが、これは?
梨田 はい。交流戦でパ・リーグが強いんですよ。そういった中でセ・リーグの本拠地でDHを採用して、そしてパ・リーグの本拠地ではピッチャーが打席に立つというね。そういうことを試みとしてやってみてはどうかと考えてます。
アナ 一度そういう試みがありましたけど、ああいうものをどんどんやっていくべきだと。
梨田 はい。そういう方がファンの方も面白いんじゃないかなと思いますね。
アナ なるほど。とにかく何かを始めようと。
梨田 そうです。
アナ では、与田さんの提言をお願いします。
アナ 『ファンの声』ですか。
与田 はい。まずファンの声を聞いてみたいなと。そして個人の能力を高めるという観点ではスゴく賛成です。ですからセ・リーグも指名打者制の試合を少しやってみる、トライしてみる。もちろんドラフトとか編成の部分からやっていかないといけないですけども。そしてやってみて、セ・リーグの良さであるピッチャーが打席に入る事によって起きる駆け引きもファンの方に楽しんでいただけると。その両方について皆さんからの声を聞いてみたいと思います。
アナ なるほど。そして上原さんはメジャーでプレーしてあちらの制度も目の当たりにされてきたと思うんですけど、いかがですか?
上原 そうですね・・・やっぱり戦力の均等化を図るんであれば贅沢税を入れたりとか、ドラフト権の譲渡であったりとか。FAで選手を獲得したらドラフト権を渡すとかという。やっぱりそういうことをやっていかないと、今は資金力のあるチームがどうしても勝ってしまっているので。
アナ はい。
上原 資金力のないチームは苦しくなってますよね。そういうのがハッキリと出てるので、そこを変えていく必要がもしかしたらあるのかなと。
アナ うーん。球界全体としてそういう制度にも手を付けていかなければ、その差は埋まらないと。
上原 はい。やっぱりソフトバンクは資金力が豊富ですから、そこが飛び抜けてますから。そこが戦力充実に繋がっていっているのかなと思います。
アナ なるほど。その辺について、与田さんは現場を経験されていているのでお聞きしますが、例えばソフトバンクと巨人は育成選手の保有数が突出しているわけですけども。
与田 はい。特にソフトバンクというのは育成契約から支配下登録になる選手の数が多いんですけど、18歳から22、23歳という選手はスゴく伸び盛りですからね。そういう選手を多く保有して支配下でどんどん1軍に送り出すということ。これが先ほど上原さんが言ったチーム内での競争にも繋がっていると思うので。そういう方法を一つでも多く取り入れられればいいと思います。
アナ まあ、チームの資金力の差を埋めること、どう均衡させるのかはかなり難しい問題かなとも思いますけど、でもそういう事に手を付けていくという段階なのかもしれませんね。
梨田 うんうん。
アナ ただ、私たちはとにかくワクワクする楽しい競争のある試合が見たいということになりますよね。
以上です。