2016年12月にBS1で放送された『球辞苑』で黄金期の西武ライオンズなどで3塁コーチを務めていた伊原春樹が3塁コーチの極意を語っています。
伊原春樹とは1981年に西武のコーチに就任
三塁コーチとしてリーグ初の5連覇に貢献
―3塁コーチの役割
伊原 何とか1点をもぎ取ろうと、その辺の走塁の生命線を担っているわけですから、相手の外野手の動きや内野手の動きを見てタクトを振るう。例えるならオーケストラの指揮みたいな感じがしますね。
―走者2塁でのシングルヒットでGOかSTOPの判断基準は?
伊原 自分は行かせる目安として、2塁走者が3塁ベースタッチしたのと、外野手の捕球が同時だったら本塁へ行かせます。
―STOPを出す時の重要なポイント
伊原 まずどんな当たりでも3塁ベースを回らせる。それからストップかゴーかを判断する。そうしないと外野手がポロっと落としたり、当たりがイレギュラーもすることがある。早々にストップを指示していると落とすのを見てから再度ゴーを出しても走者は本塁へは行けないですから。ストップの状況でも帰塁できるギリギリの所まではストップさせない。
―伊原コーチの補殺対策は?
伊原 それは相手の能力を知ること。相手の外野手の特徴とか癖とかを頭に入れながら、逐一なにかあった時にメモをしていましたから。
観察力の鋭さからクセ盗みの達人と呼ばれた伊原は対戦相手のクセをノートに書き留め、それをもとに様々な戦略を練っていた。今もそのノートを保管している。ノートには対戦相手のクセがビッシリ書き込まれている。そのノートには伝説の走塁を生んだメモ書きもある。
「クロマティの返球 いつも山なりに内野手 常に全力疾走すること」
このメモが生かされたのは1987年の西武が王手をかけて臨んだ巨人との日本シリーズ第6戦。2対1と西武が1点リードで迎えた8回裏2アウト1塁の場面。1塁ランナーは俊足の辻発彦。バッターは3番秋山幸二。打球がセンター前ヒットでクロマティの前へ。1塁ランナーの辻は2塁を蹴って一気に3塁へ。更にクロマティが内野手へ返球する間になんと走者の辻は3塁を蹴ってホームに生還する。
クロマティのクセを見抜いていた伊原の迷いなきジャッジ。伊原が見つけたクロマティのクセ、小さなメモ書きが威力を発揮した瞬間だった。
そして伊原はこの時に、もう一人ある選手を徹底マークしていた選手がいた。
―伝説の走塁について
伊原 サードコーチャーとして走者にはクロマティの守備があるから本塁に行くように腕を回してた。それでサードの近くに辻がやって来た。今度はクロマティからの返球を中継プレーで受けたショートの川相がどっちを向くか。
伊原が注目したのはショート川相昌弘の動き。川相が返球を受けてバッターランナーの進塁を警戒して1塁の方を向く(右に体をターン)か、1塁走者を警戒して3塁の方を向く(左に体をターン)かを見ていた。もし川相が1塁方向を向けばホームに突入。しかし、川相が3塁方向を向けばストップ。確率は2分の1だが、川相は1塁方向を向くと伊原は確信していた。
―確信の根拠
伊原 内野手の習性としてカットマンは辻の3塁タッチアウトは無理だと考える。そうすると次に考えることはバッターランナーの秋山を2塁に行かせないことを考えるわけですよ。そうすると川相はバッターランナーを警戒してセカンドに振り向くと。たまたま起こったプレーじゃないんですよ。全部計算し尽くしていたプレーなんですよ。
―その時に巨人の選手たちの表情は見た?
伊原 いやいや、それは見ないです。気持ちの中で「やったった!」みたいなもんですよ(笑)
そんな伊原にも計算を狂わされた補殺がある。
1993年に野村ヤクルトと激突した日本シリーズ第4戦。場面は8回表0対1と1点ビハインドで西武は2アウト1-2塁と同点のチャンスを迎え、2塁ランナーは俊足の苫篠誠治。この時にヤクルトのセンターの守備に就いていたのが名手の飯田哲也。キャッチャー出身で強肩の飯田を伊原も警戒していた。
ところが、バッター鈴木健のセンター前ヒットで2塁ランナーをホーム突入させたが飯田のダイレクト送球が決まりドンピシャでタッチアウトとなる。全て計算ずくの伊原が何故この大事な場面で判断を誤ったのか。
―この時の走塁は一か八だったのか?
伊原 いや、一か八かじゃないですね。元キャッチャーの選手はプレーが速いんですよ。それも全て頭に入れてる。捕球したタイミングと2塁ランナーの3塁ベースタッチのタイミングも完璧だったんです。自分の中では完璧にセーフだと確信して走らせましたから。「飯田にやられた!」ですね。飯田には負けましたね。
時として計算を狂わされることもある。だからこそデータの更新が重要になる。この試合後に取ったメモには新たな飯田対策として「飯田の好返球にホームOUT リードオフをもっと大きくとってもいい」と記されていた。
以上です。
内容が濃すぎますね。