2018年12月にBS1で放送された『球辞苑』で日本球界にカットボール広めた投手で中日で活躍した川上憲伸が自身のカットボールについて語っています。

 

川上憲伸は開幕投手を7度、最多勝2回、日米通算125勝ピッチャー。川上の代名詞が切れ味抜群のカットボールであり、川上の活躍によってカットボールは日本球界に広まった。

 

カットボールを投げ始めた経緯

―カットボールを投げ始めた時期

川上 シーズンで言えば2002年からですね。

 

―カットボールを投げ始めた理由

川上 僕がカットボールをマスターしようとしたのは左バッター対策のためですね。どうしても左バッターになると球種が一つ減るんですよね。僕はスライダーという変化球を持ってたんですけど。ボール球を要求しているんですけど、真ん中周辺に入って、それがヒットで収まらないという。長打、もしくはホームランで仕留められる経験が多かったんですよね。

 

川上はルーキーイヤーの1998年に14勝を上げ、新人王にも輝いたが、2年目で防御率が4点台に転落し3年連続負け越しプロの壁にぶち当たった。特に左バッターには苦しみ、左バッターになると甘く入ることを恐れキャッチャーがスライダーのサインを出せない。その結果、球種が一つ減り苦しい戦いを強いられた。

 

 

―苦手だったバッター

川上 一番苦手というか、痛い目に遭ったのは巨人の清水隆之さん。清水さんは1番バッターを打つことが多かったんですけど、やっぱり先頭打者にヒットを打たれたり長打を打たれていたという。このバッターをなんとか抑えないといけないなと。

 

 

カットボールを投げるに当たって

―左打者を抑えるために相談したある先輩

川上 武田一浩さんがドラゴンズに移籍された年ですかね。「左バッターに僕はよく打たれます 真っ直ぐ投げた球がシュート回転するんですよ」と相談したところ、「お前もっとインコースにスライダー投げればいいじゃないか」みたいな感じのことを言われまして、スゴく勉強になりましたね。

 

川上は明治大学の先輩でもある武田に相談し、シュート回転がイヤなら逆のスライダー回転をかければいいという発想がやがて川上に運命の出会いをもたらす。

 

 

マリアノ・リベラのカットボール

川上 MLBのワールドシリーズがあって、ヤンキースの抑えのマリアノ・リベラという投手が、僕から見て明らかに画面上で見たことがない球を投げとると。それを見て何とかならないかなと。

 

マリアノリベラが投げ込む今まで見たことがないボール。シュート回転する真っ直ぐとは逆の軌道を描くそのカットボールはまさに川上が追い求めていたボールだった。だが、習得に乗り出した矢先に思わぬ問題が起こる。

 

―問題点

川上 マリアノ・リベラがどういう感じで投げているのか。まずひとつがどういう握りをしているのか見たい、ということだったんですけど、VHSですから。肝心なところというかコマ送りにすると画面が分身状態になっていて(笑) 肝心なところが分からなかった(笑)

 

当時の録画再生はVHS。当時の映像では画像が粗く一時停止するとブレてしまい手元が全く見えない。

 

―得られたヒントとは

川上 最初はボールを持ってる指先の方から集中して見ようとしてたんですけど、これじゃあいつまで経ってもらちが明かないということで、もっと根本的に腕だとか肘周辺の角度を見つけていければ、ひょっとしたらヒントがあるかな、というのがありましたけどね。感覚で「こうじゃないかな?ああじゃないか?」というのを自分なりに工夫しながらやっていきましたけど。

 

映像から推測し自分なりに完成させた川上のカットボール。

 

 

川上のカットボールの握り方・投げ方

―川上のカットボールの握り

川上 まず僕の真っ直ぐはこういう感じの握りなんです。

 

 

川上 カットボールもこの握りで投げます。これで投げようと思ったら投げられます。

 

―カットボールの投げ方

川上 真っ直ぐはこういう感じ(普通に振り下ろす動作で)で投げますよね。カットボールは向こう側に投げる。

 

右打者の方に

 

川上 インサイドアウトにこするというか。中指はあんまり使ってないイメージです。人差し指か、使っても中指の人差し指側ですかね。人差し指の方にストレスをかけていた感じですね。

 

川上のカットボール①

1 ストレートと同じ握り

2 外に押し出す

3 中指を使わずに人差し指に圧力

 

 

―握りを変えて曲げ幅を使い分ける

川上 左バッターのインコースはストレートと同じ握りで小さく食い込むカットボール。左バッターのアウトコースには握りをややズラした曲がり幅が大きいカットボールを投げていました。

 

 

―カットボールの一番のポイント

川上 一番気を付けなきゃいけないのが、やっぱり下半身から始動しなきゃいけない。右肩周辺が、今で言うなら固定したいというイメージがありますね、これが右肩がちょっとでも先に出始めると、もう軌道が下に向かっていくんですね。あくまでも腰からひねっていって、あとは体を回転するだけっていうイメージなんですけど。

 

 

川上のカットボール②

4 下半身主導で右肩が出ないようにする

 

 

川上はカットボールをマスターし、左バッターのインサイドにそれを投げ込み、左バッターの苦手意識を克服。そして左バッター対策で身に付けたカットボールが大きな武器となり、ピッチングスタイルも変化する。

 

 

カットボールで変化したピッチングスタイル

―変化したピッチングスタイル

川上 1ストライク3ボール、0ストライク2ボールのようなバッティングカウントの時にインコース周辺にカットボールを投げたら1球でバッターを仕留めることができたというのが大きかったですね。バッターからすると「おいしい球が来た!」と思ったら、「あれ?」という表現が一番いいかなと。

 

 

カットボールと出会い再びエースの階段を上り始めた川上。生涯最高のピッチングもカットボールがなければ成し遂げられなかったという。

 

―生涯最高のピッチング

川上 ノーヒットノーランを巨人戦(2002年8月1日)でした時に松井秀喜さんを3打席3三振に取れた。それでインハイで中途半端なスイングをさせた時というのはスゴく印象に残ってますね。更に外のとんでもないシュートを振った時もやっぱりカットボールが頭にあった。インコースを意識したから振ったかなと。今までだったら絶対に手を出さない、ピクリともしないようなのをハーフスイングで空振りしたのはやっぱりインコースのカットボールを意識したのがあったんだと思います。

 

―改めて川上憲伸にとってカットボールとは?

川上 僕の野球人生、自分の中で成功したというのであれば、カットボールがなければ成功はしてないと思いますね。

 

 

以上です。

カットボールを広めた人。

おすすめの記事