2019年7月19日にBS1で放送された『プロ野球 ゆる~く深く!』の阪神タイガースVS東京ヤクルトスワローズで試合が雨のため中止になったので余った時間で元阪神タイガースの赤星憲広が自身の盗塁のテクニックを語り尽くしています。登場人物はNHKアナウンサー、高橋尚成、梨田昌孝、井端弘和、お笑い芸人の遠藤章造です。
アナ では塁についたところから教えていただきます。
赤星 はい。まず高橋さんは左ピッチャーなので、これは持論ですけど、左ピッチャーの方が間違いなくリードが取れます。だから左ピッチャーの時にはリードを大きめに取る。
遠藤 えっ、左ピッチャーの方がリードを大きく取れるもんなんですか?
赤星 取れます。右ピッチャーの方がターンが速いんで急に来る牽制があるんです。左ピッチャーの牽制ってファースト方向に踏み出す牽制が多いで、そんなに速い牽制がないんです。
遠藤 なるほど。
赤星 あと、なによりも顔が見えているので、なんとなく何を考えるとかが分かりやすい。右ピッチャーは背中向いてますから分かんないんですよ。
遠藤 うんうん。
赤星 だからこの場合、左ピッチャーの高橋さんなのでリードが比較的大きく取れるかなと。
遠藤 リードはどれぐらいですか?
遠藤 えっ、そんなに? けっこう取りますね。
梨田 今だとドーム球場でアンツーカーがあるよね。それだと両足が出る感じ?
赤星 僕は左足が出るか出ないかですね。それで左ピッチャーの時は左足が出てました。
梨田 なるほど。
赤星 それで僕がもう1個やってたのが、どうしても走らなきゃいけない時というのがあります。左ピッチャーの時はだいたいこのぐらい出るぐらいだと思います。
赤星 絶対に走るときはこれぐらいでした。もしくは、もう1個使ってたのがあるんですけど、ピッチャー寄りに一歩前に出ます。(※2塁方向じゃなくピッチャーの方に)
遠藤 前に。
赤星 高橋さん、近く感じないですか?
高橋 近く感じる。
赤星 それであんまり出てないように感じますよね?
高橋 あー・・・なんかその感じスゴくあった(笑) だから、逆に僕なんかは逆にランナーを見ないようにしてたんですよね。ファースト付近をざっくり見るようにしてたんですよね。けっこう顔の動きや癖で牽制かどうかが分かりやすいって聞いたんで。
遠藤 はい。
高橋 キャッチャーの方を完全には見てないんですけど、相手のベンチをボーッと見てる感じでした。
遠藤 そのボヤっとしたのでファーストを感じてると。
高橋 そうですね。なんとなく動いてるな、ちょっとリードデカいかなと、ボヤっとした視界でリードの大きさも分かるので。もし変な動きをしたらパッと牽制するという感じでしたね。
赤星 だからよく「リードをを大きく取れ」と言うじゃないですか。僕はあれは反対ですね。
遠藤 ほー。
赤星 リードを大きく取ると、選手は「戻らなきゃいけない」という心理が働くんですよ。となるとリードが大きければ大きいほど2塁への意識より帰塁の意識が大きくなっちゃうんですね。そうなると思い切ってスタートが切れなくなっちゃうんで、「戻れる」という範囲内でリードをした方が戻る意識よりも2塁への意識が高くなるので。
梨田 これはね、スゴく深いですよ。深い。それとピッチャーの方へ前に出るというのは小さい選手が大きく見える。
高橋 そうですね。大きく見えますね。
赤星 ということは距離が近く感じるので、リードを大きくしていても意外と気付かれないんです。
遠藤 なるほどー。
赤星 これはここぞの場面で使う。例えば同点の場面とかでここで絶対に走らなければいけないという時に、これ言っちゃっていいのか分からないんですけど、ひとつ使っていた僕の作戦でしたね。
梨田 スゴい話だね。うん。
高橋 ピッチャー側からするとバッターボックスで立つ赤星さんと、ランナーで1塁にいる赤星さんでは体の大きさが全然違うんですよね。それぐらい1塁にいる時の赤星さんのオーラはスゴかったですね。
遠藤 それに加えてピッチャー寄りに前に踏み出して大きく見えていたというのもありますよね。
赤星 それもありますね。基本的にはいつもベースの後ろ側の線上ぐらいをリードしてるんですけど、絶対に走らなきゃいけない時はベースの前側の線上でリードを取っていましたね。
遠藤 はい。
赤星 いつもの線上のリードと、前に出た線上のリードだとピッチャーも遠近感で見え方も違うと思うんですよね。ピッチャーにはいつも通りのリードに見えるんですけど、いつもより半歩出ていたりで、その半歩が競った試合の盗塁に繋がるんですよね。
アナ ちょっとピッチャー目線からのカメラでその違いをお願いします。
赤星 これが通常ですね。
アナ そして今度はピッチャー寄りに立って、そしてリードを少し大きくするというものをお願いします。
赤星 こういう感じですね。
アナ これリードがやっぱり少し大きくなってますね。
赤星 半歩ぐらい大きくなってます。
遠藤 そういう事を考えてやってたんですね。
赤星 これは必殺技なんですよね。あとやっぱりリードを大きく取ればいいという訳ではないということですね。だからもし走らないんであればリードを大きく取ってピッチャーにプレッシャーをかけるというのはアリだと思うんですけど、走らなければいけない場面ではあまり大きくリードを大きく取り過ぎるのは心理的に逆に体が動かなくなってしまうので。
遠藤 なるほど。
高橋 メジャーだと小さいリードのまま走ったりするんですよね。だから「この人たちは何を考えてんのかな?」って逆に思っちゃうんですよね。
赤星 多分、脚力もあるので思い切ってスタートが切れるんですよね。日本人だと比較的リードを取りたがる選手が多いんですけど、本当に自信がある、リードを大きく取っても戻れるし盗塁を決められるんだったらいいと思いますけどね。今はピッチャーのクイックも速くなってますし、ピッチャーの牽制も上手くなってますので、その中でって考えたら僕は大きくリードを取りすぎるのはマイナスかなと。
アナ 赤星さんから見て、例えば左ピッチャーだったら注意して見るところはあるんですか?
赤星 基本的にはここっていうよりは、ある程度全体的に見た方がいいと思うんですよ。逆に高橋さんみたいに牽制が上手い人、高橋さんのようにボークにならないギリギリのラインで牽制を投げたりする人がいるので、あまり早い判断で走ってしまうと、いいピッチャーだと間違いなく引っ掛かりますよね。
アナ そうですか。
赤星 だからこれは一概に左ピッチャーだから、このタイミングで行きなさいっていうのは僕は違うと思うんですよ。
アナ はい。
赤星 人によっては足を上げた時点で絶対に牽制がない人もいるんですよ。
アナ うんうん。
赤星 それは早い段階で判断できるんですけど、高橋さんみたいに軸足を伸ばしてから折って牽制をしてくる人だと早い段階で判断してしまうと、もう戻れないので。だから左ピッチャーの基本はここですっていうのはよく言われがちなんですけど、僕はそれはピッチャーによってポイントを変えないといけないと思います。
アナ なるほど。ピッチャーの立ち姿を全体で見なきゃダメなんですね。
赤星 そうですね。
アナ スタートを切ってから途中に止めるのも難しいと聞きますね。
赤星 これ実は2,3歩いって途中で止めるのってなかなか難しいんですよね。
遠藤 ですよね。
赤星 これ僕が見てる限り僕と井端さんはできてました。
アナ 井端さんが。
井端 僕は赤星さんほど速くなかったんで、僕はほとんど盗塁って字の如く完全に盗まないと走ってなかったんで。それで赤星さんはほとんど1番で試合に出てたんで、ノーアウトで塁に出るんで、ノーアウトだとほぼ100%の確率で走らないとダメですよね。
梨田 そうだね。
井端 僕は2番バッターだったので、1アウトから出塁することが多かったんで、1アウトだと塁に出てもクリーンナップに打順が回りますんで、盗塁に何球か要すると3番バッターに迷惑がかかるんで、初球に盗塁いかなかったらもうやめようという感じでしたね。
アナ うんうん。
井端 それで初球って意外とピッチャーってちゃんとクイックしてるようでしてないというか。タイム的にはやっぱり0.1秒ぐらい遅いんですね。
アナ へぇー。
井端 2球目3球目になってくると、やっとクイックする人でも正常になってくるというか。だから初球が絶対にチャンスだと思ってましたし、初球にいきなり速い牽制をするピッチャーって今まで1回も見たことないんですよね。
アナ そうなんですか。
井端 まず緩い牽制を入れて途中に速い牽制を入れたりしてくるので、緩い牽制ならまだ戻れるんで、初球にほとんど勝負したろうとはほとんど思ってました。
アナ なるほど~。
赤星 実は1人だけ初球からスゴい牽制をするピッチャーがいたんですよ。シコースキーというピッチャーがいたでしょ。
遠藤 いましたね。
赤星 むちゃくちゃ牽制が速いんですよ。リードした瞬間にファーストに腕強くバーンと振って投げてくるんですよ。
アナ 彼は何でもかんでも全力でしたよね(笑)
赤星 あれはちょっとビックリしましたよね。それで一発目でアウトになりかけて、そこからリード取れませんでした。
遠藤 なるほど。たまに牽制の球の方がスピードガン速いんちゃうかって人いますもんね。
赤星 いますいます。
以上です。